劣化版広瀬すずの話

学生時代、人よりも数多くのバイトを経験してきたと自分では勝手に思っている。

高校生の頃初めてやったスーパーのレジから始まりタダでライオンズの試合を観たいというスケベ心で始めた西武ドームのイベントスタッフ(実際は球場の外の業務に配属されてただ歓声が聞こえてくるだけだった)、ヤンキー上がりのチンパンジーみたいな輩しかいなかった引っ越し屋、きゃりーぱみゅぱみゅも来たことあるお洒落ぶったスーパー銭湯でのロウリュ師、ベルトコンベアから無限に流れてくるスプレー缶をひたすら8時間見張ってるだけの工場バイト、配送トラックの助手席にただ一日座ってるだけの駐禁対策要員、などなど。挙げたらキリないほど。

 

そんな中これらのバイトと掛け持ちして大学卒業までの長年継続してやってたのがコンビニのバイト。コンビニはバイトの中でも一番思い出深いと言っても過言ではない。

まず勤務し始めて一日でここは天国かと思った。なぜならとにかくゆるい!廃棄されるものはお弁当からホットスナック系からデザートから何から何まで自由に食べ放題だしパック系の飲み物も割と廃棄処分されるからこれも飲み放題。そして何より人が全く来ない!バイトの人同士ずーっとくっちゃべって終わり。

これは、、と思った自分は一番の親友をバイトに誘った。無事採用され、時間経たずして一緒に働くことが決まった。

 

ほぼ毎回親友と同じ日時のシフトに組み込んでもらって、働いた記憶よりも遊んでた記憶のが強いコンビニでのバイト。そんな平和なバイト先にお客さんとして現れる一人の女性がいた。

決まって毎回21時半頃に現れるその女性はお年寄りがほとんどを占める客層の中で唯一と言ってもいい若い女の子。何より一番重要なのが可愛い。そして少し広瀬すずに似てた。だからその子のことを親友と二人で「劣化版広瀬すず」ってあだ名をつけて毎回その子が来る度に話題にしてた。正直振り返ると最低すぎるあだ名だと思うから、これについての批判は誠意を持って受け止める次第でいる。

劣化版広瀬すず広瀬すずに似てるという計り知れないポテンシャルを発揮しながらも服装が目を疑うくらいださかった。主に中学生の間で横行しがちなアルファベットがいっぱい書いてあるTシャツに、靴は流通経路不明なピンクのダンロップのスニーカー。そしていつも肩にぶら下げてるのはアメリカ国旗の刺繍がでかでかとされたトートバッグ。相当使い込んでるのか、アメリカ国旗の真ん中の糸はほつれまくってた。その何とも言えないだささに自分と親友は、まあこんな田舎の廃れたコンビニに来るくらいだから、いくら可愛くてもセンスはたかが知れてるよな、みたいなことをほざいてた気がする。でも自分も親友もその可愛さを持ってしてブランド品に手を出さず、国旗が崩壊の一途を辿り始めるまで安物(であろう)のトートバッグを大事に使い続ける健気さにもうやられてしまっていた。

もう買い物のチョイスが可愛かった。店内をじっくり何周もした後にレジに持ってくる商品がアイスとカフェオレだったり、グミとゼリーだったり。そんなに長時間熟考してそれかい!みたいな。たまらんなーって二人でいつも話してた。きもいこと極まりないけど。買い物の組み合わせが神がかり的に可愛いせいでアルファベットのTシャツのだささを補って余りあるほどだった。普段のおじさんのお客さんに対しては早くレジ来いやって言う自分も劣化版広瀬すずに対しては永遠に商品を選ぶ様を見続けたいと本気で思うくらいだった。いつもレジで待ち構える自分の心の声は何持ってくんのかなー、来た来た、いやいちごオレとクッキーて!可愛いなもう!毎回こんな感じ。本当気持ちわりーと思う。

自分と親友が特にやられてしまったのが、劣化版広瀬すずが来店した直後に突然のどしゃ降りがきたときの話。劣化版広瀬すずは一旦買い物を中断して外を気にして、なかなか止まなそうな雨に困惑してるような様子だった。レジの自分と親友はどうすんだろーなーなんてこそこそ話をしてた矢先、劣化版広瀬すずが誰かに電話し始めた。間違いなく誰か迎えを呼んでるのだろう。自分も親友も何となく察して、これは彼氏確定だなって、二人であーあなんて言って絶望。

案の定しばらくしてお店の外に一台の車が走ってくるのが見えた。彼氏の登場か、、買い物を終えて退店し段々と姿が遠くなる劣化版広瀬すずを店内から目で追うと、迎えに来たのは彼氏なんかじゃなくておじいちゃんだった。いやおじいちゃん子だったのかよ!可愛すぎるだろまじで!いやーたまらん!

ちなみにこの劣化版広瀬すずさんとは一回も会話をしたことがない。終わり。